'23/2/12発行「賢者オスッテBLアンソロ」に寄稿します

「なんやかんやあって、いろんな状態異常にかかってしまったビスコをミロが優しく(?)治療する話」

novelミロビス

注:
この作品は完結しておりません。
ミロビスオンリーで頒布する予定でしたが、諸事情により書き切れませんでした。
冒頭部分をイベント限定で一定期間、公開いたします。
時系列は一巻と二巻の間です。

プロローグ

 それはビスコに巣食う錆喰い茸の治療法を探す旅での一幕。

 大概が「なんとかなんだろ、そんなもんはよ」という暴力的な考えで、これまた短絡的に解決するビスコの行動が原因でその出来事は起こった。
「ぶふぇっ、ふぇっくしょい!! なんっ……だこれは、なんか臭い粉吸っちまった」
「ビスコッ! 息、吸っちゃダメっ」
「んあ? なんっ、んぐううう」
 ビスコの口と鼻を、ミロはそのスラリと青白い指先で塞ぐ。もがもがと暴れる相棒を薄目で睨み、それを適当にいなしながら、ミロは呼吸をひたりと止めた。
 迂回しようと提案した密林を、近いからという理由で突っ切ろうとしたビスコが何かを踏んだ。ボフンっとけたたましい音と共に、辺りに広がるのは薄紫の怪しげな色をした粉。胞子であろう。ミロはその一瞬でその正体を突き止め、生まれながらの茸守りよりも機敏な反応を見せた。ビスコだって、危険な物ならその卓越した野生の危機回避能力でひらりと躱すのも造作も無いはずだった。だからこれは、さほど毒性の強いものではないのだろう。……それにしたって、無防備すぎではあるが。
 ビスコの口を塞いだまま、ミロは足元を良く確認しながらその胞子の煙幕から逃れようとその場を離れる。ビスコも目を白黒させながらも、大人しくそれに続いた。
「ガハッ!!……んだよ、これ」
「ビスコ……身体、なんともない?」
「別になんともねぇよ。悪い物だったとしても、錆喰いがどうせ治しちまうし」
「変な反応が出たら、とか思わないの? ビスコは無防備すぎだよ」
 ぴんっ、と猫目ゴーグルの下にある眉間目がけてミロは人差し指を弾く。
「いっ……てぇな!」
「ほんっとに、わかってないよね、ビスコは自分のことを」
「あぁん? どーいうことだよ」
「そういうところだよ」

一日目 ×が出ない

 昨晩、二人が宿として選んだのは放棄されて久しい慎ましやかな小屋。朽ち果てた床を生命力豊かな植物が浸食を繰り返した結果、その覆われた天然のクッションが冷たくて心地よい空間へと成り果てていた。暗がりの中、二人が寝静まった小屋の中は植物特有の青々とした生命の匂いと、下へ下へとに沈みこむような湿度に包み込まれている。
 ビスコは、何か胸を掻き乱されるような心地にハッと目が覚めた。早朝だというのにやけに目はギラギラと、『何か』を探し求めている。それは焦燥の色を呈していて、早く『それ』で満たされなければ、己で己を滅してしまいそうな狂気を孕んでいた。
 視線の先にはボロボロの小屋のベニヤ板、その隙間から見える外の陽の光が眩しく感じる。実際の所、まだ日は昇りきっておらず、照らしている光源も僅かばかりの物であったが、ビスコには目が眩むほどの強い光に感じた。
 異常な思考回路に、小さな光にすら過剰な反応を見せるビスコは、異常な状態でありつつもそれを相棒に伝えなくてはという野生の本能で相棒を探す。
 がばりと身体を起こして、すぐ後ろにいる小さく縮こまって寝ているミロの顔を見た瞬間、ビスコの中に様々な欲求が怒濤のように渦巻いた。

 触りたい。
 抱きしめたい。
 声を聞きたい。
 名前を呼んで欲しい。

 狂ったように己が探し求めているもの、それはつまり相棒、ミロであったという事実にビスコは安堵する。安堵して、そして本能のままそれを実行した。どかりと胡座をかいて、見下ろす身体に触れた。肩、二の腕、肘まで辿ったあと、布越しでは満たされずに直接頬に触れる。
「うぅん……、ビス、コ?」
 眉間に皺を寄せ、眠気に打ち勝てず瞼を上げることができないでいる表情は、まだあどけない少年だ。ビスコ、と微睡みの中、小さく名を呼んだ相棒の声だけで悦ぶ身体は、ドクンと一度高揚したものの、また眠りにつこうとした相棒に物足りなさを感じる。瞼を上げて、その大きな藍色の瞳で自分を見つめ、それしか信じないといった視線を己に向けて欲しい。
 頬に手を当て、親指の腹で目元を擽り、ミロ、とその名を呼んだ……はずだった。
 声が、出ない。ぎゅう、と眉間に皺を寄せて不快を露わにしたビスコは、もう一度声帯を震わせてミロ、と相棒の名を呼んだ。しかしその口から発せられたのはただの吐息で、口元の空気が僅かばかりに泳いだだけであった。
 これは、随分と何かがおかしい。自分の身に起こっている事が何かわからず、相棒で満たされない身体を持て余したビスコは力任せにミロの身体を抱き抱え、駄々をこねる子どものように肩口に顔を埋めた。
「なっ……なにっ、ビスコ……。うぅん、えーと、怖い夢でも見た?」
 力なく顔を横に振る。現状、ミロに対して自分の身に起こっている事を伝える手立てが今のところビスコには思いつかず、それでも接触した身体の熱に、ミロから発せられる体臭に、ビスコは少しホッとした。
 されるがままに強く抱きしめられたミロの手が、ビスコの背を撫ぜる。それだけで、孤独だった心が凪いでいく。こんなのはおかしい、いつもの自分ではないと思うのに、それが最善であるかのように身を預け、強く強くミロを抱きしめていた身体の力を少し抜いた。
 撫でる手はやがて、ぽん、ぽん、と赤子をあやすような手つきに変わり、相棒の心地よい声の振動をビスコは身体全体で受け止める。
「ねえビスコ、落ち着いた? そろそろ説明してくれないと、流石にわからないんだけど」
 落ち着いた、ような気がして抱き合った身体から離れ相棒の顔を見つめ、心配そうにこちらへ視線を向ける相棒の藍色を見た。しかし離れた熱にまた寂しさが募ってきて、ミロの細い指先をビスコはきゅ、と頼りなく摘まむ。
「ふざけてるの……?」
 ミロの指先が細かに揺れていて、自分から離れていこうとしたその熱を本能が追い、強く握り込んだ。ミロがこちらを訝しがっている視線を確認し、ビスコは(ち、が、う)と口の形をゆっくり見せつけ、続けて(こえが、でないんだ)と自分の喉元に掌を押し当てて訴えた。ミロの瞳が、疑いのものからやがて動揺へと変化するのを確認し、ひとつゆっくりと瞬きをする。
「どうして……、あっ、もしかして、昨日の」
(き、の、う?)
「ビスコが変なキノコ踏んだでしょ、その胞子の効果がもしかして、今頃発動したとか?」
(……。)
 そうだとすれば、この不可解な事態は全て自分のせいであり、ミロがやれやれといった表情になってしまうのも無理はない。とにかく声が出ない、そしてミロにはまだ伝えられていないがどうしても離れたくないということも、伝えなくてはならない。
「何か、解毒をしないと……。でも声が出ないとなると、精神的なものなのか、それとも声帯にダメージがあるのか……。まずは原因を特定しないと難しいかな。ちょっと待ってて、ビスコ。医療キットを取ってくるか……、ちょっと、何」
 狭い小屋の中、端の方に寄せた荷物を取りに行こうと立ち上がろうとしたミロを、ビスコはその腕を掴むことで静止する。普段の自分なら、決して口にしたくもない台詞を今、ビスコは伝えようか伝えまいか逡巡した。
「やっぱり、声が出ないって言うのもふざけてるんじゃないの?」
(ふざけて、ない)
「じゃあなに、さっきからやたらとベタベタ触るけど」
(…………く……ない)
 小さく、そして早口に口走った文言を、ミロは読み取れなかったようだ。
「ごめん、ビスコ、ゆっくり言って?」
(はなれたく、ない)
「離れたく、……ない?」
 コクン、とまるで支えを無くしたぬいぐるみのように頭(こうべ)を垂れる。ビスコは垂れたままの顔全体が、首元を伝ってカアァと熱くなりゆくのを感じた。
(何恥ずかしいこと言ってるんだ俺は、馬鹿じゃねーのか)と心の中で悪態をつくも、それと時を同じくして(仕方ねーじゃんか、離れたくねぇんだからよ)と相反する気持ちで不可解な感情を肯定する。
 離れたくない。そう願われ立ち往生を余儀なくされているミロは、数秒の間があって、ぽむ、ぽむ、とビスコの頭を優しく叩いた。
「ちょっとだよ、ちょっと。ほんの数歩あるいて戻ってくるだけだから。ビスコは良い子だから、待てるよね?」
 普段のビスコなら、馬鹿にすんな、子ども扱いしてんじゃねーよと返すところを、今のビスコはその一言一言を深く自分に刻み込み、(ちょっとだから、待てる、俺は良い子だから、待てる)と相棒が離れてしまう事への恐怖に打ち勝とうとしていた。
「行くよ? ビスコ、いい?」
 相棒の腕を、ビスコはそっと離す。すぐに訪れる、孤独の恐怖。とにかく触れていなければ、傍にいなければこの身体はだめなのだ。必死に求めてしまう心を馬鹿馬鹿しいと否定しようとすればするほど、それに刃向かうように不安感が増長していく。
(ミロ……!)
 音にならない声で、ビスコは相棒の名を呼んだ。
「大丈夫、ここにいるよ」
 約束通りすぐに戻ってきたミロが、震えるビスコの両手を握り込んだ。その腕には医療鞄がぶら下がっていて、慌てて取ってきたのかその口は中途半端に開いていた。しかし今のビスコにとってはそんな些細な事などどうでも良くて、触れた熱の温度にいたく安堵するのであった。

 🍄  🍄  🍄

「うーん。流石にこの暗さでは声門まで見えないけど、特に喉が腫れているわけでもないし、熱があるわけでもない。扁桃腺も、うん、腫れてない、大丈夫だね。やっぱり何か、特殊なキノコだったんじゃない? それにしても、今のビスコに不調を来すようなキノコなんて、よっぽど稀なんじゃないかな……運が悪いというか、自業自得というか……」
(うるせえ)
「それにしても、僕に触ってないと不安だなんてなんか、赤ちゃんみた……あ、痛っ」
 ぺしんっ、と小気味よい音を立ててミロの頭を叩くビスコは拗ねたようにそっぽを向く。それでも指先は小さくミロの手を握っていて、寄り添う姿に気もそぞろになり診察もままならない。どうしても両手を使わねばならない場面では、ビスコの手がミロの腕を追うようにして肌へと触れる。とにかく何処でも良いからミロに触れていたい様子のビスコに、ミロは嬉しいと素直に思って良いものなのか戸惑っていた。
 これが、彼の本心ではないとしたら。その手を取ってこの胸に抱いてやることが今のビスコにとっては治療薬と成り得たとして、この後の二人に何のしこりも残さない保証はなかった。
 ビスコを、愛している。それはミロの中で紛れもない事実となっていて、この絶妙な距離感がもどかしくありつつも、長く続く二人旅は充実感に溢れていた。ビスコはなんの奇をてらうことなくミロを信頼しきっているし、そんな態度のビスコをミロは甘んじて受け入れている。それ以上を想像することもあったけれど、今はこれで割と満足している、と自分を甘やかに騙せていた日々に突如訪れた、ビスコの奇っ怪な不調である。常に背を任せる相棒の甘ったれた態度に、ミロは(理性、理性……)とまじないのように何度も唱えていた。
「まあ、ビスコの錆喰いの効果が良い方向に効けばいいけど、もしかして胞子の効果を逆に増長してたりとかしたら、ちょっとまずいかな……」
(どういうことだ?)と不安げな表情で首を傾げるビスコに、ミロは(これは、必要な行為だから)と言い訳をして両手を優しく握る。たちまちビスコの表情が和らぎ、その不安が少しでも軽減するように指の力を少し強めた。
「胞子同士が干渉しあって、もしくはその力を高めあっていたとしたら、しばらくこの不調は続くかもしれないってこと。ビスコの身体のことは、あまりにも特異すぎて、説明が付かないからね……。しばらくは、旅も足止めかな」
(……。)
 黙りこくってしまったビスコがミロの手を指の腹で擦(さす)る。触っていても不安だ、と無言で訴えているようだった。とにかく今日は、いつも口やかましいビスコの声が二人の間に響かない。
 自分から触りに行くのは、ミロの中ではルール違反な気がした。ビスコの不調につけ込んで、ミロがいいように仕向けるのは容易いであろう。ビスコがしたいからした、という逃げ道をミロは作っておきたかったのだ。それを狡猾(こうかつ)だと言われても構いやしない、その通りなのだから。
「治るまで、保存食で凌ごうよビスコ。幸い肉も魚もあるし、近くに水源もある。別に急ぐ旅でもないし、ここは屋根があるから雨風も防げる。ね、別にいいでしょう? ……ビスコ?」
(……。)
 きゅ、と口をへの字にして考えている様子のビスコの返事を根気強く待っていると、睨み付けるような瞳がミロの目を捉えた。赤い瞳孔が小さく揺れ動いていて、それでも何かを伝えたいという意思を感じた。いつも口の悪さで濁されているが、ビスコは純粋でまっすぐで、そして嘘がつけない。言葉を封じられ、大声で虚勢を張ることも出来ず、言い換えれば今のビスコは無防備そのものだった。
 返事を、待った。その無言の応酬はとすん、と柔らかな緑の床に背が当たる音で返された。えっ、と疑問に思う間もなくミロはビスコに押し倒され、羽交い締めの如く抱き付かれている。ミロの肩口に埋めたビスコの口から熱き小さな吐息が絶えず揺れ動いていて、呼吸音だと思ったそれは何か二音を呟いていると気がついた。
(ミロ、ミロ……)
 それが自分の名だとわかった瞬間、ぶわりとミロの中で色鮮やかな感情が突風に巻き上げられた。ビスコに抱きしめられている。名を呼ばれている。彼が欲しくて堪らず渇望に震える腕を、背に回さない理由が見つからなかった。
「ここにいるよ、ビスコ」
 声を震わせずに言えたのは、自分でも偉いと思った。ずしりと重い屈強な身体が、犬のようにすり寄ってくるのをあやすように背を撫ぜる。いつも一緒にいる相棒のあまりにも近い距離感に、この胸の高鳴りがバレてやしないかと思いつつ、ビスコはというとそれどころではないようだった。
 はふはふ、と次第に息を荒げるビスコ。不意に首筋に濡れた感触が走り、「ちょっと、ビスコ⁉」と慌ててその身体を引き剥がそうとしたが、羽交い締めされたままの身体は微動だにしない。ぴちゃ、ぴちゃ、と肌を味わうように動かす舌は、次第により体臭の濃いうなじへと鼻筋を潜り込ませていく。
 今日のビスコは言葉で説明することが出来ない、いや、喋ることが出来たとて、その本心を語ることは躊躇われただろう。触っていると安心する、しかしそれでは足らないとねだるビスコは密着を強め、あろうことか腰の隙間から手を差し込んで直接肌をまさぐってきた。
「ちょっ、ビスコ、ストップ、ストップ……!」
 聞いているのか、それとも敢えて無視しているのかはわからないが、ビスコが止まる気配はない。
 愛撫、と言うには拙く、触れ合い、と言うには少々度が過ぎるスキンシップに、熱が昂ぶる。しかし、どうやらその先を知らないビスコは、ただただミロの肌をまさぐるだけ。行き止まりのドアを開かない開かないと嘆く大きな子犬は、答えのない出口を探して躍起になっていた。
 きっと、肌と肌の触れ合いだけでは、ビスコの焦燥を満たすことが出来ないのだろう。
「ビスコ、顔上げて」
 声を掛けてもなかなか姿勢を変えようとしないビスコに、「悪いようにはしないから、ね?」と何度も優しい声であやす。はぁはぁと荒い息をつくビスコがようやく観念したのか顔を上げた。
 汗で湿った額に、赤い髪が垂れている。髪を下ろすと急に幼い印象を与えるビスコの表情は辛そうだった。今にも泣き出しそうな顔で、それを顔面の筋肉を使ってやり過ごそうとしているのが見て取れる。ビスコの首の裏に手を添えて、そっと優しい力で引き寄せれば、コツン、と額と額が吸い寄せられるように密着した。
「ビスコ、足りない?」
 じわ、と翡翠の瞳が一段と厚い水の膜に覆われる。はぁ、と一段と深く吐いたビスコの吐息が自分の唇にかかった。その距離、わずか数センチ。ビスコの頬を両手で包み込み、指の腹で目尻を辿れば、ほろりと涙が容易に零れた。生ぬるい雫が自分の指を伝う。
 ビスコは、ちょっとやそっとのことでは泣かない。溶鉱炉に身体を焼かれたあの時でさえ、笑って自分を打てと言ったあのビスコが、今、自分を求めて泣いている。
 ぎゅ、と噤んだビスコの口が、わなわなと震えながら小さく何かを呟いた。
「ごめんビスコ、もう一回」
(た、り、な、い)
「触っても、舐めても足りない?」
(た、り、な、い)
「そっか……、じゃあ、粘膜で触れあうしかないね」
(……?)
 んべ、とミロは大きく開いた口から舌を出した。なるべく卑猥さを排除して、あくまでも治療行為だと自分に言い聞かせて、瞳だけで(ほら、何してるの?)とビスコに目配せをする。
 ビスコは最初、その意図をわかっていない様子でミロの舌を呆然と見ていた。しかしやがて、それが粘膜の触れ合いを意味しているとわかったのか、一番簡単で距離の近いキスという方法を差し置いて、何故か指先でミロの舌を触り始めた。
 他人に、指で舌を触られるという行為をミロは初めて体験した。親指と人差し指を使って舌先を摘ままれ、引き下げられた舌の中央を五本の指全体を使って確認される。ちがう、そうじゃないと思うけれど、執拗なビスコの確認作業は終わらない。仕舞うことが許されないミロの舌先には唾液が集まり、それは容易にビスコの指先を濡らした。ビスコの、少し塩辛い指先を味わいたくとも、舌先に逃げられまいとした執拗な指先のせいで思うように動かすことが出来ない。そもそもミロが意図したのはこういうことではなくて、という指摘をすることすら、今は封じられている。
「い、あ、う(ちがう)」
 飲み込めない唾液をダラダラと流しながら、ミロは違うと母音だけ喉奥から発して訴える。当のビスコだってちっとも満たされた顔をしておらず、始終困り顔だ。
(ビスコの、その唇と舌を使うんだよ。)
 ビスコの唇を指先で触れたその瞬間、翡翠の瞳孔が見開いた。あっ、という顔をして、違うことに気がついたのか、それともこれから唇を合わせることを想像したのか、表情が硬いままの頬に朱が走る。しかしミロがその赤らみを見初めたのも一瞬で、視界はすぐに暗くなった。
 言葉通り、ビスコに喰われてしまう。
 ガチンガチンと歯と歯がぶつかる音すら気にならない程の、獣の交わりが始まった。

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書き終わっている部分はここまでです。
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